衆議院事務局総合職大卒:平成26年度・専門記述の試験問題

今回は、平成26年度・衆議院事務局総合職大卒の専門記述試験の試験問題を取り上げます。

問1(憲 法)

以下の事案に含まれる憲法上の問題を取り上げ,論ぜよ。
「市議会議員であるXは,喉を手術し,その後発声が困難な状態となった。そこで,市議会に対して,代読による発言を認めるよう求めた。しかし,市議会での発言は議員本人が口頭で行うのが原則であるとして,この要求は認められなかった。その結果,市議会議員の任期終了までの1年ほどの間,Xは市議会の委員会・本会議で事実上発言できない状態が続いた。

この問題は、中津川市代読拒否訴訟と呼ばれる平成24年の名古屋高裁判決に基づいており、最高裁判決以外で非常に注目された比較的最近の判例に基づいた出題でした。難問ではありませんが、全く予想外の論点だったといえます。

この問題は「平成24年度 重要判例解説」(有斐閣)や「判例ナビゲーション 憲法」(日本評論社)などを読んでいれば解けた問題ですが、一般的な公務員試験の勉強では通用しない論点でした。基本書や判例百選だけでは通用せず、相当幅広く判例や論点を整理する必要があります。

問2(行政法)

次の設例を読み,以下の設問①~③に答えよ。
(設例)
Xは,平成13年10月○日の午後8時頃,高速道路を走行中,約80メートル前方の道端から飛び出してきた小動物との衝突を避けるため急ブレーキをかけたところ車両がスリップして中央分離帯に激突し,重傷を負った。事故現場を含む数キロの区間は,周囲が原野であり,本件事故以前の3年間に小動物と走行中の自動車との接触事例が約90件報告されているが,本件のような重傷あるいは死亡のケースはなかった。本件現場付近の道路には,「動物注意」の標識が設置されており,また,動物の道路への侵入を防止するため有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されていたが,鉄線相互間あるいは地面と金網柵との間に小動物が侵入できる透き間があった。そこで,Xは,道路管理者であるY公共団体に対し,「全てを金網の柵にし,柵と地面との透き間を無くした上,動物が地面を掘って侵入しないように地面にコンクリートを敷いていれば事故の発生を防ぐことができた」(以下,この防止策を「新防止策」という。)として,国家賠償法第2条第1項に基づき,損害賠償を求める訴えを提起することとした。
設問①
国家賠償法第2条第1項の「瑕疵」について,1 その一般的な定義,2 瑕疵の有無に関する一般的な判断方法を,判例に照らして述べよ。
設問②
当該訴訟においてYが行った次の主張について,判例の見解にも言及しながら,論評を加えよ。
「本件道路において,新防止策がとられていなかったとしても,全国あるいは当該地域の高速道路に標準的なものとしてそれが普及しているとまで認めることはできない。」
また,「新防止策を実施するとした場合,動物侵入場所等が予測困難であることなどから,Yが管理する高速道路のほぼ全線について改修工事を実施する必要があり,多額の費用を要するため,新防止策の未実施をもって瑕疵があるとはいえない。」
設問③
上記の設問①及び②への解答を踏まえ,本件における道路管理の「瑕疵」の存否について,設例から読み取ることができる他の考慮要素にも言及の上,見解を述べよ。

この問題は、高速道路に小動物の侵入防止対策が講じられていなかったことが設置管理の瑕疵に当たらないとされた平成22年の最高裁判決(キツネ事件)をベースにした問題です。

この判例も、「ケースブック行政法」(弘文堂)や「判例セレクト2010(第2巻)』(有斐閣)をこなしていればできた問題です。やはり司法試験や国家総合職並みにこうした専門書レベルの勉強が必要な問題といえます。

問3(民 法)

平成24年2月,Aは自らが所有して居住する甲土地と乙建物を売却し,その代金で都心にマンションの一室を購入することを考え,同年4月10日,Bとの間で,甲土地と乙建物の売買契約を締結した。その売買契約によれば,甲土地と乙建物の代金を合計6,000万円とし,B(買主)はA(売主)に対し手付金として600万円を同日(平成24年4月10日)に支払うことが定められていた。また,本件売買契約では,Aが適切なマンションの一室を探して購入することを考慮して,AのBに対する甲土地と乙建物の引渡しを,契約の成立から1年後の平成25年4月10日と定め,その時にBがAに対して残代金(5,400万円)を支払い,手付金は代金支払の一部に充当することとなっていた。
この事実関係を前提に,以下の設問①及び②に答えよ。なお,設問①及び②はそれぞれ独立し,相互に関係しないものとする。
設問①
AとBとの売買契約における手付金条項によれば,手付金の600万円については,Bが債務不履行をしたときはAが没収し,Aが債務不履行をしたときは,AがBに手付金相当額を返還するとともに,同額を違約金として賠償する旨が定められていた。
平成25年1月頃,Bは,本件売買契約の履行期が近づいたため,残代金支払に充てるため,5,400万円を用意した。しかし,Aは,適切なマンションを探したものの都心の地価が高騰し,自己の希望するマンションが見付からず,また長年居住した甲土地と乙建物を売却することに躊躇を覚え,平成25年2月15日,Bに対し,手付金相当額を返還するとともに,同額の600万円を提供して,本件売買契約を解除する旨を伝えた。
このAの解除に対するBの反論を二つ考え,それらを踏まえつつ,Aの解除の適否を論ぜよ。
設問②
平成25年3月頃から市街地の地価が徐々に上昇し,Aの所有する甲土地の価格も上昇した。そこで,平成25年4月10日,Bが残代金を用意し,Aに甲土地と乙建物の引渡しを請求したところ,Aは売却の意思を翻し,甲土地と乙建物の引渡しを拒絶した。その後も,BがAの履行を促したにもかかわらず,Aは言を左右にし,本件売買契約の履行に応じなかった。そこで,平成25年7月10日,BはAに対し,本件売買契約を解除した。ところで,Bは,平成25年3月15日,甲土地と乙建物をCに8,000万円で売却する旨の売買契約をCとの間で締結していた。
この場合において,Bが不動産の売買を業とする者であるときと,そうではなく,たまたま知人のCに甲土地と乙建物を売却する者であるときとを区別し,BのAに対する損害賠償請求の額が異なるか否かを論ぜよ。

この問題は、不動産の売買契約に関する解除の類型をよく理解していれば、さほど難しくは無い論点です。ただし、設問2などは一般的な公務員試験の勉強では太刀打ちできなかった方が多いと思います。やはり高度な基本書や判例集で各論点の詳細な中身を勉強することが要求された問題です。

問4(政治学)

「民主政」における「少数と多数」をめぐる論争について,以下の設問①及び②に答えよ。
設問①
19世紀における「多数の専制」への不安は,20世紀に入って,少数(エリート)が多数(大衆)を支配,組織,指導,あるいは代表する「現実」を強調する方向に転じたといえる。複数の論者を挙げ,その理論を簡潔に述べつつ,この動向を説明せよ。
設問②
これに対して,そうした現実の中に新たな「民主政」のモデルを発見しようとする試行錯誤が繰り返されている。複数の論者を挙げ,その理論を設問①の理論との連関に留意しながら簡潔に述べよ。

この問題はエリート理論を勉強していれば容易に書けた問題です。エリート理論自体は重要な論点ですが、各論者の理論をどこまで書けたかが合否の分かれ目だったかもしれません。

設問1ではパレート、モスカ、ミヘルス、設問2ではミルズやパーソンズといった現代のエリート理論を説明できれば十分だったと思われます。

問5(経済学)

労働分配率について述べた以下の設問①~③に答えよ。
設問①
労働分配率とは何か,簡単に説明せよ。この際,日本の労働分配率を計算するためには,どのような指標を用いて計算するかについて言及することが望ましい。
設問②
経済学では,企業の総費用に占める労働費用の割合はどのように決定されると考えられるか。等量曲線を用いて説明せよ。
設問③
実際の労働分配率の変動を考える際にどのような要因が重要と考えられるかを説明せよ。設問②の議論でカバーされない要因にも言及しながら記述すること。

労働分配率はマクロ経済学で学ぶことがあり、等量曲線はミクロ経済学で学ぶ考え方です。設問1~2は経済学の主要な論点でそれ自体は難しいものでは無い標準問題ですが、設問3は専門書での学習を要するレベルの問題だと思います。

衆議院事務局・大卒