外務省専門職員の専門記述対策:試験委員の著作を読む

外務省専門職員の専門記述試験においても、試験委員が存在します。試験委員は、国家総合職など国家公務員試験ごとに選ばれ、試験問題の作成を担当する専門家の方です。

外務省専門職員の試験委員は、毎年4月1日前後の官報で告示され、憲法・経済学・国際法・時事論文それぞれの科目で選ばれます。このうち時事論文は外務省の人事課の職員が選ばれるため、ここでは省きます。

平成27年度の外専の試験委員のうち、憲法・経済学・国際法の方々は、以下の通りです(肩書は告示当時のもの)。26年度と同じ顔ぶれで、交代はありませんでした。

憲法
井上典之(神戸大学教授・理事・副学長)
山元一(慶応義塾大学教授)
国際法
柳原正治(九州大学教授)
淺田正彦(京都大学教授)
経済学
武田巧(明治大学教授)
岩壺健太郎(神戸大学教授)

外務省専門職員の試験委員:憲法

外専の試験委員のうち、憲法の井上典之氏は人権分野の専門家ですが、文化やスポーツの法的側面も研究テーマにされています。山元一氏は憲法理論の研究者としてフランス憲法をテーマにされています。

お二人の研究テーマは外専の憲法と結びつくものではありませんが、両者ともロースクールや司法試験向けの参考書を書かれています。これらの著作は、論点とどう向き合って結論に導くかという、思考過程や論述の構成方法の参考になります。

井上氏は専門が人権領域ということもあり、外専受験生でも使えそうな著作がたくさんあります。一方、山元氏はフランス憲法が研究テーマということもあり、受験生が読める本はちょっと見当たらないかもしれません。

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井上氏の著作のなかでは、共著ですが「ファーストステップ憲法 有斐閣」が最も読みやすい参考書としておすすめできます。法律の学習情報誌「法学教室」の連載に新判例などの情報を加えて単行本化した参考書です。

本書は人権、統治はもちろん、憲法改正や危機管理といった憲法に関する幅広いテーマを、比較的わかりやすい言葉遣いで解説した参考書です。基本書を一巡したくらいから読み物として読んで、基本的な論点の整理方法のヒントになる良書だと思います。

ケースで考える憲法入門 有斐閣」も井上氏の著作のなかでは共著ですが、こちらは人権分野から20件ほどの判例を取り上げた参考書です。ロースクール向けですが、具体例の問題点とその解決方法を提示したテクニカルな記述で、事例問題対策に使える有効な参考書といえます。

また、井上氏が単独で書かれた「憲法判例に聞く ロースクール・憲法講義 日本評論社」は30の主要テーマごとに最高裁判決を取り上げ、関連判例も収録して判例の展開をまとめた判例演習書です。

本書には、外専の憲法で平成26年度に出題された郵便法事件最高裁大法廷判決も含まれており、試験委員対策としても有効な本です。司法試験・ロースクール生向けに書かれた本ですが、外専受験生でも基本書レベルを理解した方が演習書として使うのに十分おすすめできます。

一方、井上氏と山元氏が参加した共著に、「憲法学説に聞く ロースクール・憲法講義 日本評論社」があります。こちらは井上典之・小山剛・山元一のお三方が、合計15のテーマについて有力な説(多くは少数学説)の論者と対話するという参考書です。

こちらの本は憲法のほぼすべての領域をカバーして、質問者である3人の方が深く鋭く切り込んで論戦を繰り広げています。やはりロースクール生向けと言える本ですが、憲法をひと通り学習した方が、憲法の論点を駆使した頭のトレーニングに使える参考書です。

外務省専門職員の試験委員:国際法

国際法の柳原正治氏は戦争法の専門家として知られており、放送大学のテキストや司法試験・ロースクール向けの定番参考書「プラクティス国際法講義 信山社」および演習書「演習プラクティス国際法 信山社」の編集も手がけておられます。

このうち「プラクティス国際法講義」は他の基本書では分からなかった方にはメインテキストの候補としておすすめできますし、「演習プラクティス国際法」は、外専受験生にも演習書としておすすめできる高度な参考書です。どちらも誤植が多いのが難点ですが、それにも関わらず数多くの学生に幅広く使われている良書といえます。

淺田氏は、大量破壊兵器の拡散防止、国際法における武力行使の規制、日本の戦後補償の問題を研究テーマにされています。参議院憲法調査会で参考人として招かれ、国際法から見た武力行使の問題について話されたこともある専門家です。

ちなみに、淺田氏の著作は「浅田」という表記になっており、検索時など注意が必要です。浅田氏の著作には、国際法のメインテキスト「国際法 東信堂」があります。

外務省専門職員の試験委員:経済学

経済学の武田巧氏は、経済学のスペシャリストです、マクロ・ミクロ経済学それぞれの理論を駆使して経済政策、労働市場、国際経済などさまざまな研究をされています。

武田氏の著作では、「入門マクロ経済学 大きくつかむ経済学のエッセンス 実教出版」「入門ミクロ経済学 これだけはおさえたい経済学のエッセンス 実教出版」が挙げられます。

本書は、武田氏が明治大で准教授時代に参加された共著であり、経済学の入門テキストです。一般的な経済学の基本書よりはずっとコンパクトに基礎から解説しており、初学者の導入本あるいは既習者が基礎的な要点を総復習する用途に向いています。

岩壺健太郎氏は財政学・金融論、国際金融の専門家です。特に為替に関する研究論文を多く書かれています。岩壺氏の専門領域が外専の経済学に直接結びつくことは無さそうですし、ご本人の著作物に教科書的な参考書は無いと思います。

ただし、平成26年度の外専の経済学は、電気自動車への補助金支給の影響、マクロ経済モデルと金融・財政施策の有効性、リカードモデルという、典型的な標準問題ばかりでした。これも、経済学全般の武田氏と国際経済の岩壺氏の影響と考えれば十分予想できた課題です。

外務省専門職員の試験委員対策:まとめ

外務省専門職員の試験委員の著作は、主要な論点をどう展開して論述すべきかの参考になりますし、基本書の理解が進んだ時点で専門知識を駆使したケーススタディや演習書としておすすめできます。

こうした試験委員の著作はとても高度なものです。特にロースクール向けの本を使う場合、時間をかけて読んでも分からない論点、あまりにも細かく込み入った部分や公務員試験で出そうにない部分は飛ばして読んでもかまいません。試験委員が書かれた本は、絶対に必要ではありません。

しかし、外務省専門職員の試験委員の著作は、重要な論点や判例に関して、それぞれの方がどういった思考のプロセスを好むか、論点整理の手がかりになります。

試験委員の著作は、各科目においてどんな論点が考えられるか、あるいは、どんな論述の持っていきかた(展開の方法)があるのか、といった点はおおいに参考になります。

外務省専門職員の方が試験委員の著作を使うのは、メインの基本書や判例集などをこなした方が、その知識を駆使して問題を解決する実戦的な演習書としておすすめできます。こうした論理的思考のトレーニング=論述対策には、とても有用な専門書だと思います。